Kakuya Ohashi and Dancers

春の祭典

オリジナルの楽曲による作品にこだわり続けてきた大橋可也&ダンサーズがはじめてバレエ音楽の名作「春の祭典」に取り組んだ2010年作品。
1913年『春の祭典』初演。その狂乱を持って迎えられた上演は、2つの大戦へ世界が突き進んだ前世紀の10年代を象徴する出来事だった。それから97年、新しい10年代、テン年代の最初の春が訪れようとしている今このとき、21世紀日本のダンスの最先端を突き進む大橋可也&ダンサーズが新たな祭典の幕を開ける。
ゼロ年代から続く閉塞感を基底に置きながら、人が人を傷付け合いながらも、新たな道を進んでいくさまを描き出した。出演は一般からの公募を含め総勢42名、大橋可也自身も3年ぶりに作品への出演をおこなった。

大橋可也×佐々木敦×西中賢治『春の祭典』鼎談
大橋可也インタビュー

出演:大橋可也、垣内友香里、皆木正純、前田尚子、多田汐里、山田歩、唐鎌将仁、平川恵里彩、エフテル・プリュン、HIKO(from GAUZE)
エキストラ出演:安達彩、生田千花、井口恵子、井野真紀子、今井美保、荻原聖子、奥真亜子、奥沢侑生、長田梢、加藤龍一郎、喜多紗也佳、球磨ユキ、小松杏里、小宮あけ未、崎本実弥、佐々木宏子、篠原健、清水さと、田川昌子、對馬香、とまるながこ、長洲仁美、丹羽洋子、BAE SUHYUN、政岡由衣子、宮島紘子、山田健太、山田恵、山本晴歌、横山八枝子、和方大、輪湖瑞穂
振付:大橋可也
音楽:ストラヴィンスキー「春の祭典」より

衣装:ROCCA WORKS
照明:遠藤清敏(ライトシップ)
音響:牛川紀政
舞台監督:原口佳子(officeモリブデン)
写真:GO (go-photograph.com)
宣伝美術:佐藤寛之
制作:山本ゆの

上演日:2010/5/14-16
会場:シアタートラム
上演時間:75分

主催:大橋可也&ダンサーズ
提携:財団法人せたがや文化財団・世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区
助成:文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業)、財団法人セゾン文化財団(2009年度)
協力:三五さやか、舩橋陽、鈴木携人、上田茂、大橋めぐみ

あらかじめ失われたものたちへ(「春の祭典」当日パンフレットより)

ゼロ年代が終わり、テン年代が始まったとしても、ここに新たな希望などあるはずもなく、失われた10 年は、失われた15 年となり、さらに20 年になろうとし、これから成人を迎える若者たちは、もはや失われた世代ですらなく、あらかじめ失われたものたちと呼ばれるだろう。
さて、「春の祭典」。春の光は凍りついた大地を解かし、雪解けの水は地表の堆積物を洗い流す。今回の舞台では、とある地方都市を背景に、2 つの家庭、彼らを取り巻く人々、外部からの訪問者が登場する。閉ざされた共同社会の価値観が崩壊し、外部から押し寄せてくる価値観に覆われていくさま。ここでは私たち全員が生け贄として選ばれている。そう、これは今私たちが暮らす日本社会の縮図でもある。
私たちを覆う閉塞状況から抜け出すには、もはや幻想でしかない過去の価値観や制度にすがるのではなく、あるいは、美辞麗句に飾られた救済思想に身をゆだねることではなく、この閉塞状況をただ見つめ、立ち向かい、新たな枠組みを模索していくほかはないのだ。
「春の祭典」は何も答えなどは用意していない。しかし、この体験が、あらかじめ失われたものたちにとって、次なる一歩を踏み出すための刺激になることを、切に願う。

劇場入りを前日に控えて
大橋可也