鷹野隆大
October 23, 2008
鷹野隆大 [ empire_paper ]
ダイアローグ×大橋可也「エロい男のすすめ」
大橋:鷹野さんは男性をずっと被写体に撮っておられて、男性が被写体になるケースって、特にヌードだと無くて、一般的に見慣れない認識だと思うんです。ただ、最近そういった認識が変わってきて、秋葉原通り魔事件の加藤なんかは自分が不細工だからモテないっていう、そういう論法がある訳です。そこで男が見た目を、ある意味凄く普通の人が、見られる対象として意識するようになったんじゃないかなと思うのですけど。
鷹野:そうですね。若い男の子の顔がどんどん奇麗になっていますね。女の子のような美しい顔の男子が増えたというか。容姿を気にする度合いは、この10年くらいでガラッと変わったと僕は感じていて、もちろん女の子は昔からずっと着飾っていたけれど、ここ数年はかなり派手になっていて、プチ整形とか、まつげのカールとか、マスカラもいろいろ長く見せるものが出てきたりして、美容に対する執着が相当強くなってる気がします。女性につられて男性も派手な方に流れてるのかもしれませんね。
大橋:そうですね。女性の場合、美しくなると言うのは男からの評価より、自分は奇麗になるという自己目的性が強いのかなと思っていて。男は逆に目的があるけどモテるために具体的な紐付けがあまりない。これをモテるためという目的性をもっていればある意味僕は健全な事だなと思うんですけど、かっこいいという所だけの枠組みだけがあって、そこから抜け出せてないんじゃないかなって。
鷹野:確かに、女性陣と話していると、あんまり男の顔を気にしていないって意見があったりして。イケメン必ずしもモテずっていう。
大橋:実際そうでしょうね。
鷹野:モテようと思ったら、現実には、単純な顔の善し悪しとは関係なく、いろいろとアピールしなければならないと思うんですが、その努力、エロい想像力と言ってもいいかな、を全部サボる理由として「かっこ悪いから」という言い訳を出してくるのかもしれませんね。
大橋:そうですね。今の時代的な変化っていう意味だと、インターネットとか、映像メディアの発達があって、誰でも被写体になる機会が増えて、ある意味男達は意識し始めた所なんじゃないかな。
鷹野:容姿も含めたトータルな自己表現という点で、男たちはまだまだ夜明け前ということでしょうかね。
大橋:だから、そこをもう少し健全な考え方をすると、もっと男達は見た目やエロさをアピールするというか、それはモテるためという回路ではなくて、例えば、男のヌードにしてもそうですよね。もっと出回って良いんじゃないかな。
鷹野:ポイントは「見られている」という意識かもしれませんね。女性は子供の時から、外見で値踏みされるという残酷な経験を繰り返していて、容姿っていうのを本当にシビアに突き詰めている。
大橋:男はその分、経験値が少なすぎて打たれ弱いですかね。
鷹野:そう思いますね。いま僕は学校で教えているんですけど、セルフポートレートの課題を出すんですよ。そうすると、総じて女性の作品は見られるんですが、男性のは見ているこちらが気恥ずかしくなるものが多い。一生懸命やってるんだけど何かがズレているんですね。
大橋:そのズレってなんですかね?
鷹野:自分を客観視する能力の弱さだと思います。女の子達は今言ったように子供の時から容姿や外見を磨いていて、自分の言葉も含めて、自分がどういう風に相手に影響を与えるかを計算できると思うんです。だから、写真に写す時も、それの延長線上で普通にやれば意図を明快に伝えられる。でも、男の場合は意図があってもズレちゃう(笑)。
大橋:それらが今のいろんな問題に繋がっているのかなと思いますね。
鷹野:状況が変わっているのに、それに対処するだけのスキルっていうか、経験値が無い事が問題に繋がっている。そう考えると、例えばダンスは、ほとんど裸の舞台に自分を曝すわけですから、こういう経験値をあげるのに役立つかもしれませんね。
大橋:もっと曝け出すこと、そこからエロさを身に着けること。それが今の男たちに必要なことなのでしょうね。
2008年9月19日 麻布十番にて
聞き手:大橋可也、友兼亜樹彦、熊谷歩
鷹野隆大(たかのりゅうだい):
写真家。1963年福井市生まれ。1987年早稲田大学政治経済学部卒。 1994年より作品を発表。2006年、写真集『IN MY ROOM』(2005年 蒼穹舎)にて第31回木村伊兵衛写真賞受賞。セクシュアリティをテーマに他者との関係性を問い直す作品を発表している。
鷹野隆大「ゆらぎ」
2008/11/7-26
CALM & PUNK GALLERY (カーム アンド パンク ギャラリー)
〒106-0031 東京都港区西麻布1-15-15浅井ビル1F
tel: 03-3401-0741
写真家の鷹野隆大がこれまで断続的に制作してきた映像作品で構成した個展。