Tune To A Dead Channel: Departure / Arrival

サイバーパンクSFの嚆矢『ニューロマンサー』の冒頭に想を得て、
〈いま〉の八王子の風景でありながら、往還可能なDeparture⇄Arrivalという2つの世界が立ち上がる。

本作品は、東京芸術祭「ファンタスティック・サイト」「Undercurrents」の一部として2022年3月末まで公開されていました。

舞踏の方法論をもとに現代社会の身体の在り方を問う大橋可也&ダンサーズ。
東京西部・八王子で撮影された本作は、彼らが街を歩き、記憶を共有しながら振付をつくるという独自のプロセスを経て創作された。
都内有数の工場地帯・北八王子の鉄製品工場。現役で稼働する機械と場を共有し、ライブ配信をおこなった「Arrival」。
宿場町としても栄えた八王子の街なか。河川敷・飲み屋街・かつての遊郭跡など、複数の場で撮り下ろした映像作品「Departure」。
大橋可也みずからもカメラを持ち、〈記憶〉を踊る身体をとらえた。
※「Arrival」に関しては、2021年1月にライブ配信をおこなった上演の映像を再編集したものを配信いたします。

Arrival(86分)

  1. From the Deep Mud 深い泥の中から
  2. We are UCHIDA われわれは、ウチダ
  3. Seeking the Fragments かけらを探す
  4. Hello World ハローワールド
  5. To Departure 出発へ

Departure(26分)

  1. Reincarnation 再来
  2. Stand at a Crossroads 岐路に立つ

出演:後藤ゆう、横山八枝子、高橋由佳、ヒラトケンジ、阿竹花子、松尾望、田花遥、今井亜子、今井琴美、大橋可也(Arrivalのみ)
振付・構成・演出:大橋可也
音楽:涌井智仁
衣裳・ヘアメイク:るう(ROCCA WORKS)
リサーチ:東彩織
グラフィックデザイン:石塚俊

「Arrival」
美術:涌井智仁
照明:遠藤清敏(ライトシップ)
音響:牛川紀政
舞台監督:原口佳子(モリブデン)
演出部:中野雄斗(URAK)
協力:古郡稔、古茂田梨乃
ライブ配信ディレクション:石塚俊、村田啓
撮影:飯岡幸子、山本大輔、大橋可也
編集:大橋可也
記録写真:前澤秀登

「Departure」
映像ディレクション:宮澤響(Alloposidae LLC)
助監督:佐藤駿
演出:藤川琢史
撮影:飯岡幸子、大橋可也
撮影チーフアシスタント:中村碧(らくだスタジオ)
撮影アシスタント:及川菜摘
編集:宮澤響(Alloposidae LLC)、大橋可也

主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
共催:東京芸術祭実行委員会[豊島区、公益財団法人としま未来文化財団、フェスティバル/トーキョー実行委員会、 公益財団法人東京都歴史文化財団(東京芸術劇場・アーツカウンシル東京)]
制作:NPO法人アートネットワーク・ジャパン
協力:フェスティバル/トーキョー実行委員会、八王子市、公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団、株式会社カフス、公益財団法人セゾン文化財団、株式会社 森崎工業、MODESTE、八王子食糧株式会社

大橋可也より
今回の作品では、僕たちの振付をいかに映像に残すかが大きなテーマでした。そのために、大橋自身がダンサーとともに振付をおこないながら撮影する方法を取りました。カメラが踊る側でもあり、観る側でもある関係性を目指すことで、ダンサーが振付を踊る感覚、視点を伝えることができればと思ったのです。
Arrivalでは、手持ちカメラを大橋、残り3台のカメラを飯岡幸子さんと山本大輔さんで回してもらいました。Departureは、3ヶ所を大橋手持ちカメラで、1ヶ所は6台の固定カメラで撮影しています。
Arrivalは、ライブ配信時のカット割りをベースに大橋が再編集、Departureは、カット割りを大橋、それ以降の編集作業を映像ディレクターの宮澤響さんが担当しています。
もう1つのこだわりは、振付のシークエンスを止めない撮影です。
ライブ配信をおこなったArrivalはもちろんですが、Departureでも、4ヶ所各20分強の振付をすべて一発撮りで撮影しています。
それは、意識と身体の変化こそが、僕たちの(テキストをベースにした)振付のもっとも重要な点だからで、ある動きや時間を切り取った撮影では、その変化を写し撮ることができないと思ったからです。
Departureは合計4ヶ所9台のカメラで撮影した映像を編集していますが、時間軸の入れ替えや変更はおこなっていません。映っているできごとは、そのときに実際に起きたことです。

各シーンのタイトルについて
映像本編にシーンのタイトルが出てくるのは、ラース・フォン・トリアーの影響なのですが、シーンの説明ではなく暗示になればと思っています。
シーンのナンバーは、Arrivalから連番になっていますが、Departureから観てもらっても問題ありません。

1. From the Deep Mud 深い泥の中から
最初に八王子をみんなで訪れたときに強い印象を受けたのが、Departureの撮影場所にもなった浅川河川敷に残された2019年台風19号の爪痕です。本番の撮影時には既に撤去されたのですが、河川敷に様々な漂流物とともに泥が積み重なった状態が、僕たちの記憶を積み重ね振付をおこなっていくさまと重なるように思えたのです。Arrivalの会場が工場であることともあり、堆積した状態からあらたな存在が生まれ出るイメージで、このタイトルとしました。

2. We are UCHIDA われわれは、ウチダ
「ウチダ」は僕たちが八王子で何度も訪れた地元のスーパーマーケットです。住宅街に忽然とあらわれ、雑多にいろんなものが置かれ(しかも安い)近隣の住民でにぎわうその場所は、なにか秘められた集いがおこなわれる神聖な空間のようでもあり、工場とのつながりでは(ウチダでお惣菜をつくっていることもあり)製品がつくられる過程でもあるのかと思いました。八王子の人たちへのリスペクトを込めて、タイトルを選びました。

3. Seeking the Fragments かけらを探す
1と2の振付は、八王子での体験をもとにつくった振付ですが、このシーンの振付は、作品のタイトルの引用元でもあるウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』からつくりました。主人公の記憶が錯綜する描写と、僕たちが振付を(記憶を)探っていく過程を重ねたタイトルです。

4. Hello World ハローワールド
ここの振付は、『ニューロマンサー』の続編『モナリザ・オーヴァドライヴ』の冒頭からつくりました。作品の制作過程で一番最後につくった振付なのですが、作品の終わりに向かう、これから外の世界に出ていこうとする、気づきの意味を込めたタイトルです。

5. To Departure 出発へ
なぜかこれは、ジュディ・ガーランドが『オズの魔法使』で歌った『オーバー・ザ・レインボー』(の映像)からとった振付です。作品のラストらしく開放感があり、次に続くシーンとしたいと思ってタイトルをつけました。Arrivalは(会場では)音楽を流さないで上演をおこなったのですが、このシーンだけは実際に会場でも同じ音が流れています。

6. Reincarnation 再来
6と7(Departure)の振付は、八王子での最初の体験からつくったものです。今回のクリエーションでは、何度もこのシーンの冒頭に映し出される浅川の河川敷を訪れることになりました。その繰り返す体験と、作品の上演が終わるたびに一度離れて、また集まるという、僕たちが作品をつくって発表する過程(今回だとArrivalが終わってDepartureが続く)での体験を重ね合わせたタイトルです。開始6:30くらいに流れる『守ってあげたい』(八王子防災無線のスピーカーから)とのユーミンつながりでもあります。

7. Stand at a Crossroads 岐路に立つ
このタイトルは、実際の振り付け(ダンサーが立ち止まる)そのものでもありますが、われわれは立ち止まりどこに行くのか、作品を体験し終わったあとの問いかけにしたいと思ってつけました。エンディングは『ブレードランナー』をイメージしました。

「Arrival」より、写真:前澤秀登